旅行における食事の予約と事前購入とは [コラムvol.84]

要旨

 国内旅行の滞在需要拡大のためには観光地の宿泊施設は泊食分離販売を推進することが望まれている。その場合、消費者は食事に関してどのような予約行動をすると予想されるだろうか。予約とはリスク回避の行動であり、習慣の行動である、との視点からこの問題を考えてみたい。

本文

 旅行者動向2008によると「おいしてものを食べたい」という目的の旅行は旅行目的の5%を占めており、国内・海外ともほぼ同率である。この比率は一見少ないように見受けられるが、観光ガイドブックやパンフレットでは旅先での食事やレストランは常に大きく扱われており、食事は誘客のためのキラーコンテンツとなっている。そこで、旅行における食事の予約行動について考えてみたい。

 国内旅行需要を拡大するためには「旅行中は食事を自由に食べたい、選びたい」というニーズに応えることが必要であり、そのために食事はパッケージ料金(=事前予約・事前購入)から切り離すべきである、という泊食分離販売の考え方がある。確かに海外旅行では既にパッケージ料金から夕食が切り離されているケースが多いし、国内旅行でも都市に宿泊するパッケージでも同様である。従ってこれは旅館の一泊二食販売制度とそれを支持する旅行会社、さらに観光地における外食産業の未発達に課題があると言えよう。

 では、このような課題が解決され、泊食分離販売がなされた場合、人々は旅行においてどんな食事行動を取ると予想されるだろうか。このことは旅館と旅行会社の経営者にとっては重要な経営課題である。そこで食事の「予約」と「事前購入」の意味を考えてみたい。

 そもそも予約とはリスク回避の行動であり、それが一つの習慣となって予約行動が成立していると仮定する。旅行を確実に・失敗無く・期待通りに実行したい、という意図が飛行機や鉄道の座席や宿泊施設の予約となって現れる。このリスク回避の行動はリスクの大きさ、すなわち代替手段の有無に比例するし、対象への期待度や対象の混雑予想度も影響する。

 航空座席は取れなかったときのリスクが大きいから予約するし、人気のあるホテル旅館も同様である。そして食事が目的の旅行であれば当然、そのレストラン(あるいは旅館)を予約することとなる。また予約行動は自分が責任を持つ同行者への配慮として取られることが多い。失敗は許されないからである。大事な人との記念旅行では当然予約することとなるし、逆に一人旅では宿泊にせよ食事にせよ予約なしの旅行が多くなると考えられる。

 また、食事予約の有無は習慣にも左右される。旅館では予約しなければ食べられないという認知から、泊食分離販売をしている旅館であっても予約が7~8割を占めているのに対して、リゾートホテルと認知されているホテルでは無予約での利用が多い。

 一方、予約が事前購入(旅行クーポン購入やネットでの事前クレジット決済)まで進むにはさらなるハードルがある。安心できる決済のシステムが存在することも必要であるが、なによりも「事前購入のお得感(割引や特典)」が意味を持つと考えられる。

 このような予約行動が、特に食事に於いて、
「どんな旅行の時に、誰と一緒の時に、何日前に、どんな情報をもとに、」
実施され、それが事前購入にまで結びつくにはどんなプロセスが作用しているかを調査することは宿泊産業にとって重要である。

 現状では、泊食分離販売を行った場合の事前予約食事客比率・無予約食事客比率、他店流出客比率は容易に予測できないため、経営への影響を評価できないことがこの販売手法が拡大しない要因である。そのため、国を始めとして様々な泊食分離販売の実証実験が行われてきているし、先行して泊食分離販売を実施している事例も存在するにも係わらず、経営者はこのような経営上の不安感を払拭することが出来ないでいる。

 そこで、観光地側での事例調査だけでなく、消費者行動の側からこの問題を考えること、すなわち外食における食事の予約行動を調査することも必要であろう。実際、外食ではインターネットや携帯サイト上のグルメ情報の増加により食事予約は拡大していると考えられる。事前の情報入手が容易になり、かつ予約が簡便化すれば、旅行における食事予約はむしろ増大するのではないだろうか。

 予約とは一種の習慣的行動であることからも、日常生活で食事を予約する行動が同様の形態で旅行先での食事を予約する行動に結びつくだろうことは容易に想像できる。この意味では観光地に於いてもグルメガイド情報がインターネット上で提供されれば、例え泊食分離販売を行っても、多くの人は夕食については予約するだろうと予想される。その際の予約決定要因を、日常の外食行動で、誰と食事の時に、どんな価格帯の時に、どんな店舗なら食事予約に結び付いているか調査して類推してみることも一考である。