地方財政緊縮の煽りを受けて多くの自治体で観光予算の縮小が続いています。しかし、地方の課税自主権が強化されるには時間がかかるでしょうし、安定的な財源確保のために観光税や協力金等の導入を検討する自治体が今後増えていくでしょう。筆者は数年前に観光分野の法定外税の事例研究を行ったことがあります(Link)。今回は観光税導入についてお話ししたいと思います。(塩谷英生)
◆観光税の分類と課税自主権の実態
観光税は、大きく分けると旅行者への課税と観光事業者への課税に分かれますが、世界観光機関やWTTC等の資料をみると前者の方が多くなっています。
前者の代表的な分類としては、宿泊税、入域税(環境分野への使途が多い)、レンタカー税、飲食税があります。我が国の「入湯税」は観光振興を使途に含む我が国唯一の「法定目的税」ですが、実態としてこれが地域の観光財源の基幹を成している例は国際的に珍しいでしょう。温泉大国日本らしい特徴です。
飲食税は、かつて我が国で料飲税(特別地方消費税)という名目で徴収されていた税です。これは普通税として運用されたため、飲食産業には恩恵は無く、また、小規模事業者が多いために未納者が多くて徴収コストも大きいという課題がありました。例え目的税に衣替えしたとしてもこれを復活させることは当面困難でしょう。なお、贅沢税として現在も続いている普通税に「ゴルフ場利用税」があり、ゴルフ場関連のインフラ整備にも多少は回されているようですが、その課税根拠は弱いと言わざるを得ません。
後者の事業者への課税が難しい理由の一つには、課税対象業種が航空産業(燃料税等)や宿泊産業など観光客比率の高い業種に絞られることがあるでしょう。観光産業は交通機関や宿泊業など幅広い産業が成立していますが、例えば公共交通機関にしても飲食業にしても地元需要が大きなウェイトを占めているため、観光税の対象として馴染まないと考えられます。また、特定業種に絞った”狙い撃ち”課税は導入サイドとしても理論武装が難しいもので、仮に実現したとしても使途が限定されやすいという短所もあります。
やや細かい話になりますが、地方自治体は法定税であっても制限税率の範囲であれば自主的に超過課税を行うことができます。しかし、国は特定業種に対する不均一課税を原則として認めていません(総務省通達レベル)。国は「課税自主権」という長期的方向性は掲げていているものの、地域が独自の課税方式を採ろうとする段階では様々な制限を掛けているのが実態です。
超過課税と並んで地域の自主的な裁量で導入が認められる税が、「法定外税」です。我が国の観光税の多くがこの制度を用いています。しかし、これも総務大臣の同意要件という制度があり、要するに国の”許可”が必要となっています。技術的にも理論面にも非常に細かいチェックを受けるため、町村レベルでの導入では県の応援を得るケースが多く、また、税額は100円や200円といった小規模なものに留まっているのが実態です。
◆避けたいビジョン無き観光税導入
筆者は、自治体はその観光資源の特性、地理的特性、置かれている経済的・財政的な環境を勘案して、もっと自由に観光客への課税を行って良いと考えています。しかし、税収は増えても、課税による観光客の反発とそれに伴う経済効果の縮小というトレードオフの可能性を自治体は理解する必要があります。
そのリスクを冒して課税を行うのであれば、そこには明確なビジョンと納得性が必要です。後ろ向きの目的の代表的なものとして財政難があり、これを完全に否定するものではありませんが、関連する調査結果などをみると、旅行者の納得性を得ることは簡単ではないようです。旅行者が喜んで観光税を支払うには、共感できる観光地の長期ビジョンとその実現へのわかりやすい基本戦略を自治体が保有していることが不可欠な要素と言えるでしょう。観光税導入へのアプローチの仕方として、“先ず税ありき”で議論を進めてはならないということです。
税導入よりも前の段階で、ビジョンの共有がなされ、関連する条例整備や市民活動が平行的・総合的に進行していることが理想であり、そのためには首長のリーダーシップが大きな役割を果たします。例えば、法定外税の一号案件でもある河口湖町の「遊漁税」では、旧河口湖町の小佐野町長が早くから「環境なくして観光なし」とのビジョンを発信していたことが税導入を進めるにあたっての推進力になりました。
もう一つ、ブレの少ない施策展開を図っていく上で、法定外目的税の事例では“基金方式”を採ることがしばしば行われます(太宰府市「歴史と文化の環境税」、高知県「森林環境税」等)。基金から予算をどう配分していくか、また財源を用いた事業が効果的に行われたかの判断は、所謂「事業仕分け」のような評価作業にあたるのですが、運営委員会を通じて行われることで税導入の目的に照らして、使途のチェックが行われることになります。
今後は、委員会等での透明性の高い施策評価を成立させるための要件として、統計資料による裏付けがより重要になってくるでしょう。例えば、事業の費用対効果測定に適した観光統計、新財源を用いた事業への納税者の満足度調査などです。また、観光資源保全を使途にするのであれば個別資源の危機の度合いについてのモニタリングなども有効となるかもしれません。