20代の友人旅行はどう変わったか -過去10年間の調査データ分析結果から [コラムvol.123]

 当財団では1998年から毎年1回、全国規模のアンケート調査として「旅行者動向調査」を行っています。そして、調査結果に基づいて過去1年間の国内旅行マーケットの動向をまとめたレポートである『旅行者動向』を1999年以降、毎年発行してきました。発刊以来10年が経過した節目にあたる昨年度、これまで蓄積してきた調査データについて新たな角度から分析を実施、その結果をまとめた『旅行者動向別冊~旅行者の行動と意識の変化』 をこの度、発刊いたしました。
 この10年で国内旅行市場にどのような変化があったのか、ご興味のある方はぜひ本レポートを手にとっていただきたいのですが、せっかくなので、今回はその中から20代の旅行の過去10年間の変化について、私個人の意見を交えながらご紹介したいと思います。

■少人数化する20代男性の友人旅行

 みなさんもご存じのように、20代全体の国内宿泊観光レクリエーション旅行の旅行量はこの10年間で大きく減少しています。若年人口が減少していることもありますが、それだけでなく旅行の実施率自体が下降しています。
 中でも、特に減少したのは友人や知人との旅行です。寄与度でいうと、20代の旅行減の約半分は友人・知人旅行の減少によるものです。20代の友人・知人旅行は、01年~03年と06年~08年を比べると、約4割減少したと推計されます。

 旅行の中身をみると20代女性では旅行タイプ、同行者人数が一様に減少し、はっきりとした特徴が見られないのに対し、男性は減少の傾向が比較的明確です。例えば旅行タイプでは「仲間と楽しく」が全体の減少分の約3分の1強を占めているほか、「スポーツ」、「温泉」などが他の旅行タイプに比べて大きく減っています。同行者人数をみると、「3人」以上が大きく減少する中、「2人」の減少幅は比較的小さく、06年~08年では「3人」「4人」の比率を上回るようになっています。

 20代男性のグループ旅行が減少の背景のひとつは、”クルマ離れ”が影響していると考えられます。80年代から90年代にかけてのスキーブーム等に支えられた、「スポーツ」を目的とした「3人」以上のグループでの「自家用車」で行く旅行が減少したというのは、非常にわかりやすい減少要因です。

 しかし20代男性の減少は、それだけでは片づけられないように思えます。特に私が気になったのは、若年層男性の「2人」の旅行があまり減っていないという点でした。私は分析を進めていくうちに、そこには心理的な要因が働いているのではないかと思うようになりました。

■コミュニティの”繊細化”がグループ旅行減少の要因?

 現在の若年層のコミュニケーションは”繊細化”していると言われています。否定というリスクを回避するために、周囲とのコミュニケーションに可能な限り気を配っているのが現在の若者の特徴で、リスクを回避して円滑なコミュニケーションを成り立たせるため、「とりあえず自分たちの間にあるちょっとした同質性ないし共同性―たとえば、クラスが同じだ、年齢が近い、服装の好みが似ている、同じ趣味を持っているなど―を暫定的に信頼してコミュニケーションを開始し、その後もその局所的な共同性を信頼してコミュニケーションを続けていく」(注1)傾向があるのだそうです。いわゆる「空気を読む」「地雷を踏まない」といった行動はこういった背景からきているようです。
 グループ旅行の減少の背景には、こういったコミュニケーションの”繊細化”が進み、多人数での共同性を築くリスクを避けるといった心理が働いているのかもしれません。

 さらに現在の若者は、上の世代と比べて集団で同じ時間や場所を共有する機会が少なくなっています。家では一人部屋が与えられ、自由に一人の時間と空間を確保することができます。学校生活でも、最近の修学旅行はホテル宿泊が主流で、大部屋で布団を並べて寝るといった経験をする機会は少なくなったと言われています。こういった環境に育ったことを考えると、彼らにとってグループで行動することは、われわれの想像以上にストレスを感じるものになっているのかもしれません。

 一方で、先に触れたように若年層男性の「2人」での旅行はさほど落ち込んでいません。実際、男子学生に尋ねてみたところ、”男のふたり旅”にはさほど抵抗がない、周りの友人たちも男ふたりで旅行に行っているという答えが返って来ました(ちなみに同じ質問をアラフォーの男性たちに投げかけると、一様に”ありえない”との回答が返ってきたのとは対照的です)。旅行の目的もダイビングなどではなく、映画『おくりびと』を友人と観たらおもしろかったので山形に行ったとのこと。どちらかといえば日常的で、ささやかなきっかけです。もしかしたらコミュニケーションが取りやすい「2人」という単位で、たまたま共通のきっかけが見つかれば、今の若年層は旅行に動くのかもしれません。

 これからの旅行市場の活性化のために、若年層の旅行喚起は取り組むべき最も大きな課題です。人々の好みや暮らし方、考え方が多様化する現代では、以前のようなブームを生みだすことは極めて困難です。大きな仕掛けで若年層全体を動かそうとするのではなく、彼らが生まれ育ってきた背景を理解し、小さなきっかけをいくつも作っていく。それが今、若年層の旅行を促すために求められていることではないでしょうか、私はそう感じています。

(注1) 出典:高橋勇悦ほか「現代日本の人間関係-団塊ジュニアからのアプローチ」(学文社)