初心者の入口 [コラムvol.134]

■初心者を愛好家に育てる仕組み

 昨年、ついに一眼レフデジタルカメラを購入しました。普通のデジカメは持っていましたが、子どもの成長を鮮やかに記録するならやっぱり一眼レフ。価格も手頃になってきたので、購入を決めました。 秋葉原の家電量販店で商品を買い求め、近くのカフェで早速開封してみると、袋に包まれたピカピカのカメラや説明書ともに、一眼レフ初心者向け講座やフォトサークルの案内が入っていました。

 デジタルになり、価格も手頃になったおかげで以前より多くの人が手にするようになった一眼レフ。しかし、そこは奥の深い世界です。せっかく買ったのにうまく使いこなせず、お蔵入りになってしまう人も少なくないのでしょう。初心者向け講座や趣味仲間のつながりは、ハードルの高い趣味活動において初心者のドロップアウトを防ぎ、愛好者を定着させる良い仕組みです。

■登山ブームはコミックエッセイが後押し

 初心者といえば、ここ数年20~30代女性で登山をはじめる人が増えています。2010年には「山ガール」が流行語に選ばれるほどにマスメディアでも話題となり、さながら現代の登山ブームの様相を呈しています。
 このブームに先駆けて、登山初心者が記したコミックエッセイが発刊されていたことをご存知でしょうか。鈴木ともこ著『山登りはじめました』(メディアファクトリー)です。もともとは運動が苦手だったという著者。自身の経験をもとに登山の楽しみ方を漫画で紹介するという、登山初心者にとって大変親しみやすい内容となっています。「登山後はやっぱり温泉とビール!」なんて、イマドキの働く女性なら誰しも共感を覚えますよね。
 2010年のオリコン年間本ランキング旅行ガイド部門では、『るるぶ』や『まっぷるマガジン』が上位を占める中、たかぎなおこ著『ローカル線で温泉ひとりたび』(メディアファクトリー)が10位にランクインしました。彼女もまた、『ひとりたび1年生』と題する初心者向けのコミックエッセイで人気の作家です。 読者と等身大の著者がゆるいスタイルで描くコミックエッセイは、現代の若い女性の感性に響きやすいのかもしれません。この層に関心をもたれている方には、ぜひ一度ご覧になられることをオススメします。

 もうひとつ、2010年は「コロプラ」に代表される位置ゲームが話題となりました。GPS付きの携帯端末を持って移動することで得点を稼ぐこのゲーム。地方の土産店にゲーマーが殺到したニュースがきっかけで話題となりました。位置ゲーム愛好家向けの団体旅行や、泊まると特典が得られる提携宿泊施設も登場。位置ゲームはもともと出張などで外出の多い層にも人気がありますが、これまで旅に積極的でなかった人々の旅行意欲を刺激したことが何より画期的です。

■旅行好きを育む、もうひとつのステップ

 子どもの頃に旅行を経験すると、大人になってから旅行好きになる人が多いといいます。しかし、旅行経験ある子どもが旅行好きな大人になるまでには、もうひとつ乗り越えなければならない壁があるように感じます。 家族旅行や修学旅行など、子どもの頃に経験する旅行は概して受動的です。人に誘われて付いていく旅行は予想以上に記憶に残らず、旅そのものの楽しみを実感することも案外少ないもの。当人が旅行好きになるまでには、どこかで能動的な旅行スタイルへと転換するタイミングがあるはずなのです。

 そのひとつが「必然性の高い旅行目的を持つこと」ではないかと考えます。その経験を通じて、自分なりの旅行スタイルを確立していくことができるのではないでしょうか。私自身も、学生の頃は旅行へ出かけることが億劫でしたが、仕事で何度も出張する中で自分が好む旅行スタイルをつかむことができました。 位置ゲームは旅慣れない人々に確固たる旅行目的を与え、コミックエッセイは旅行初心者がなぞりやすい旅行スタイルを提案しています。 自己の旅行スタイルを確立することで、はじめて人は自由に旅立つことができるようになるのです。

■旅慣れない人の旅立ちを応援しよう

 2000年以降、旅行者数の減少傾向が長く続いています。ということは、裏を返せば旅慣れない人々が若い世代を中心に数多く存在するということではないでしょうか。「若い人は旅行をしない」なんて、嘆いてばかりでは何も変わりません。コミックやゲームのように入りやすい入口を用意し、楽しく継続できる場を提供する。こうした動きの積み重ねで、旅行市場は再び活気を取り戻していくのではないでしょうか。

【参考サイト】
 メディアファクトリー「コミックエッセイ劇場」
 http://www.comic-essay.com/
 ※コミックの一部が立ち読みできます!

 オリコン「オリコン2010年年間”本”ランキング 旅行ガイド」(2010年12月1日)
 http://www.oricon.co.jp/entertainment/ranking/2010/bookrank1201/index29.html