旅行・観光消費動向調査について
我が国の国内旅行市場の全体像を把握するための調査の一つとして、観光庁が実施している「旅行・観光消費動向調査」があります。この調査は、無作為に抽出した日本国内居住者にアンケート調査票を郵送で送付し、記入済みの調査票を返送してもらうという「郵送調査法」を用いることで、四半期単位での国内旅行全体の旅行者数や消費額などを推計しています。
今回のコラムでは、旅行・観光消費動向調査のデータを活用した分析を行ってみたいと思います。
国内観光客の満足度の傾向
旅行・観光消費動向調査では、2003年に調査を開始して以来、アンケート調査票の配布数、調査の実施回数、調査項目など、調査内容の変更が何度か行われています。2012年からは、国内旅行の満足度に関する質問項目が追加されました。
満足度を向上させることは、観光マーケティングの現場で重視されています。満足度が高い観光客は、リピート訪問を行う可能性が高くなるとともに、友人や知人などの周りの人に好意的なクチコミを拡散することで、より多くの顧客を呼び込むことが期待できるからです。実際、多くの観光地や観光関連施設では、満足度を把握するための調査が実施されています。
個別の観光地や観光関連施設で行われる満足度調査とは異なり、旅行・観光消費動向調査では、評価対象を限定せずに満足度を測定しています。そのため、我が国の観光客満足度について、全体的な傾向を把握することが可能となります。調査方法は、過去3ヶ月以内で直近の旅行の満足度について、「大変満足」から「大変不満」の7段階の選択肢から当てはまるものを選択してもらう形式を採用しています。調査結果については、サンプリングの方法が厳密であることから、統計的にも信頼できるデータであると考えられます。
実際に、国内旅行の観光客満足度の傾向を見てみることにしましょう。以下のグラフは、消費単価(1回の旅行で使う金額)が比較的高いことから、経済的なインパクトも大きい宿泊観光旅行の満足度について、男女別・年代別の結果(現時点での最新公開データである2016年分)を示したものです。
図表1 宿泊観光旅行の満足度(男女別)
図表2 宿泊観光旅行の満足度(年代別)
※図表1・図表2ともに国土交通省「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究(2016年版)」より筆者作成
データの全体的な傾向について見ると、男女別では、男性の「大変満足」の選択率がやや低い傾向となっています。一方、年代別の結果について見ると、年代が高くなるほど「大変満足」の選択率が低い傾向となっています。「大変満足」の選択率は、性別の違いよりも、年代別の違いのほうが大きそうです。ちなみにこの傾向は、今回紹介した2016年の調査データに限らず、2012年以降、概ね共通して見られています。この点を踏まえると、「大変満足」の選択率は、一貫して中高年ほど低くなっていると解釈できます。
まずは中高年観光客のツボをつかむ作業からはじめよう
それでは、なぜ年代が高くなるほど、「大変満足」の選択率が低くなるのでしょうか。
年代が高い人ほど、旅行経験を重ねている傾向にあることから、目が肥えている可能性があります。良質なサービスや美しい景色といったことでは飽き足らず、より一味違った経験をしないと「大変満足」と思わないことが、理由の一つとしてあげられます。
中高年観光客に「大変満足」と思ってもらうようにするためには、まずは彼らがどのような経験に心を動かされたのかについて把握することが必要となってくるでしょう。中高年観光客は旅行者数に占める割合も高いことから、「大変満足」と思ってもらう人たちを増やすことは、我が国の旅行市場の活性化にもつながってくるものと考えます。