例年と違った夏休みの家族旅行
個人的な話題で恐縮ですが、筆者はここ数年ほど、夏休みは家族で国内外の観光地に旅行してきており、家族の中では毎年の一種のルーティンとなっています。
ただ、今年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行拡大により、公共交通機関や目的地で「感染させられるリスク」、また無自覚に他人を「感染させてしまうリスク」、また地方での「(特に東京からの観光客に対する)住民感情に対する懸念」といったものもあり、例年のような家族旅行を行うべきか、といった点は大いに悩んだところでした。
そのような中、筆者の家族がとった選択は「普段は気軽に泊まれないちょっと高級なホテルに泊まる」ということでした。
時期としては8月末、Go toトラベルキャンペーンが開始され、社会的には自粛ムードが緩和されつつあったタイミングでした。通常よりも割安な金額で泊まれるホテルが見つかったこともありましたが、何より、それまでの半年に及ぶ自粛生活から少しの間でも解放されたいという家族の気持ちが、筆者の躊躇する気持ちを上回った状況がありました。
「ステイケーション」市場への対応の動き
このような「ホテルに泊まること」そのものを目的とする旅行スタイルは「ステイケーション」(ステイ+バケーションの造語)と呼ばれ、特に都市部を中心とした宿泊施設でも、それに対応した宿泊プランを提供する動きが見られるようになっています。
2020年8月にはエクスペディアがサイト内にステイケーションに適した宿泊施設を紹介するページを開設したり(※1)、女性向けの情報誌(OZ magazine)で特集が組まれたりするなど(※2)、コロナ禍における新しい旅行のスタイルとして関心が高まっているようです。
ステイケーションのさらなる定着のために
今回のステイケーションは、言ってみれば消去法によるものではありましたが、筆者・家族ともに、よい夏休みの思い出となり、高い満足度が得られる結果となりました。
ここでは、自ら実践してみて感じた、ステイケーションのさらなる定着のためのいくつかの視点を述べてみたいと思います。
①「非日常」の積極的な提案
「普段は気軽に泊まれないちょっと高級なホテルに泊まる」という時点で、既に「非日常」ではあるわけですが、その中でも、「自宅ではできない過ごし方」を提案することで、さらに宿泊の動機づけとなるのでは感じました。
実際、各宿泊施設の提案しているプランを見ても、「家庭型ロボットと部屋で過ごす」「プロに着付けてもらって浴衣で過ごす(オプション)」「部屋で重箱に詰めた会席・フランス料理を楽しむ」など、提案している過ごし方は様々です。
ちなみに、筆者は今回の滞在中、自宅マンションの室内では自由に飛ばすことのできないドローンを、思う存分飛ばして楽しみました(写真)。同様に「好きな楽器を持ち込んで演奏し放題」とか、「持ち込んだゲーム機を大画面につないでプレイし放題」といった過ごし方も面白いかもしれません(そのための設備投資が必要にはなりますが)。
②地域と連携した消費機会の創出
ステイケーションはその性質上、消費が宿泊施設内に限定される傾向があります。実際、筆者も今回の滞在中は基本的に部屋の中で過ごし、夕食・朝食もルームサービスで済ませました(ルームサービスも一種の 「非日常」として楽しみにしていた面もありましたが)。
ただ、観光地に立地する宿泊施設では、ステイケーションをベースとしつつも、施設単体の取り組みとするのではなく地域とも連携することで、地域への経済効果波及はもちろん、相互の消費機会の拡大につなげることができると思います。
例えば、地域全体で十分に感染防止対策を講じることが前提となりますが、「地域での飲食やアクティビティへ誘導するような施設内での情報発信」、あるいは逆に「地域の飲食やアクティビティの施設内への「出前」」といった取り組みを行うことなども考えられます。
③交通手段も含めた感染防止対策のアピール
今回筆者は公共交通機関の利用過程で感染する/させるリスクも考えて近場での「ステイケーション」を選択したわけでですが、それでもホテルへの往復には公共交通機関(地下鉄)を利用する事になりました。
当財団が5月に実施した旅行意識調査の結果からも、「公衆衛生の徹底」や「密の回避」といった取り組みは、旅行者が今後旅行先を選ぶ際のいわば「必要条件」となることが示唆されています(※3)。そのような中では、施設での滞在中のみならず、その行き帰りの交通機関も含めて「公衆衛生の徹底」や「密の回避」の方策を講じ、それを組み込んだプランとすることで、「旅行はしたいが感染リスクが心配」で出控えを行っている層に訴求することができるのではないでしょうか。これについて、例えば先に挙げた事例の中では「都内へタクシーで「お送り」もしくは「お迎え」」「マイカー利用者のために駐車場料金を無料」としている例があり、参考になると思います。
おわりに
コロナ禍の中で、旅行市場が従前のような状況まで回復するには相応の時間が必要と思われます。そのような環境で(あるいはそのような環境だからこそ生じる)新たな旅行のスタイルや市場に着目し、それを積極的に取り込もうとする取り組みは必要かつ有効と考えます。当財団としても、そのような動きについて着目し、引き続き情報収集や整理、公表を行っていければと考えています。
参考資料
- ※1:エクスペディア「気軽に旅へ」ページ
- ※2:オズマガジン 2020年12月号「今こそホテルへ」
- ※3:新型コロナウィルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その4)(12ページ)